GTDで最も有名なのは下記のワークフローですが、この中のプロジェクトの概念でつまずく人が多いです。
でも、それはある意味当たり前です。
なぜなら、ワークフローはGTDの半分しか説明しておらず、プロジェクトはワークフローで説明できていないもう半分の要素だからです。
本記事は、GTD生みの親であるデビッド・アレンの著書「ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編――仕事というゲームと人生というビジネスに勝利する方法」(以下、「本書」と略記) に基づいて、ワークフローでは説明しきれていないGTDのもう一つの側面からプロジェクトを解説したものです。
本記事を読めば、GTDのプロジェクトを適切に扱えるようになり、結果としてビジネス・プライベート両面でGTDの恩恵を最大限に受けられるようになります。
1. プロジェクトのつまずきポイント
GTDのプロジェクトの定義としてWeb上でよく見るのが
「複数の行動が必要なもの」
という説明です。
この定義に従うと以下は全部プロジェクトになります。
洗濯機を修理する
スペイン語を話せるようになる
来年末までに売り上げ15%増
自分を常に高めていく
正直、レベル感が違いすぎて、実現に必要なタスクの数や複雑さ、スケジュール感も全く異なりますし、とても同じように管理できるとは思えません。
それにも関わらず、ワークフローの中では「プロジェクト」としか書かれていないため、特に、タイムスケールの大きなプロジェクトや、価値観や漠然とした願望などの抽象度の高い話の扱い方がわかりません。
ここがGTDにおけるプロジェクトの最大のつまずきポイントだと思います。
2. プロジェクトがわかりにくい理由
GTDのプロジェクトがわかりにくい理由は大きく2つあります。
2-1. GTDのワークフローは「状況のコントロール」の話なのに対して、プロジェクトは「将来への見通し」の話だから
まず、GTDそのものに対する誤解を解くと、GTD=ワークフローと思っている人が多いですが、それは間違いです。端的にいうと、
GTD = 状況のコントロール(ワークフロー) + 将来への見通し
なのです。
物事をストレスなく、最大効率で進めていくためのキーワードは次の2つだと私は考えている。
・(状況の)コントロール
・(将来への)見通し
- 本書 P69 -
そして、状況のコントロールと将来への見通しを料理に例えて以下のように解説しています。
「(状況の)コントロール」と「(将来への)見通し」という2つのキーワードは密接に関連しているが、それを達成するためのアプローチは異なっている。
例えば料理で考えてみよう。キッチンがごちゃごちゃしているとき(状況がコントロールできていない状態)は、調理器具や食器類を片付けてきれいに整理する必要がある。一方、何を作るかまだぼんやりとしか決めていないとき(将来への見通しが定まっていない状態)は、食材を何にするか、盛り付けはどうするか、を考えなくてはいけない。言うまでもなく、素晴らしい料理を作るには状況をコントロールし、何を作るかの見通しも定めなくてはいけないが、それらを達成するためのアプローチはこのように異なっている。しかしながら、どちらも密接に関連しているし、どちらかが欠けているようでは問題がある。
のちに詳しく述べるが、状況をコントロールしていくには5つのステップが、将来への見通しを定めていくには6つのレベルで物事を俯隊する必要がある。これらの知識を身につけ、適切な場面で適切な方法を用いていくことで、あらゆる物事を効率的に進めていくことができるようになる。
- 本書 P70 -
GTDの有名なワークフローは状況のコントロールを図示したものなのに対して、プロジェクトは将来への見通しの話なのです。しかも、 ワークフローに、将来への見通しに関する話は一切出てきません。ここがプロジェクトがわかりにくいと感じる1つめの理由です。
2-2. 解説記事でよくあるプロジェクトの定義が曖昧だから
GTDの解説記事でプロジェクトの定義として最もよく見かけるのが「複数の行動が必要なもの」という表現ですが、必要な「もの」が何なのかが曖昧でこれでは誤解を生みかねません。本書によれば
達成するのに1つ以上の行動が必要な、1年以内に達成可能な「望んでいる結果」
- 本書 P324
がプロジェクトの正確な定義です。つまり、GTDにおけるプロジェクトとは一連の行動の「結果」なのです。
当たり前ですが、望む結果の内容によって必要な行動は変わってきます。
漠然とお金持ちになりたいと望んでいても、それが年収1000万なのか、1億円なのか、または1億円の資産を築くことなのか、具体的にどんな状態を望んでいるのかによって、取るべき行動は変わります。ですが、プロジェクトの定義が「複数の行動が必要なもの」という曖昧な表現だと、「望む結果」を具体化するという点に思いが至らず、何となく、「年収アップ」のようなキーワードをベースに必要な行動を洗い出すということになりがちです。
これではうまくいくはずがありません。プロジェクトをわかりにくくする2つめの理由は、GTD解説記事でよく見られる曖昧なプロジェクト定義です。
3. ワークフローでプロジェクトに割り振られたものをどう整理すれば良いのか?
では、ワークフローに従ってプロジェクトに割り振られたものを具体的にどう整理すれば良いのでしょうか?
GTDでは将来への見通しを定めるために、望む結果を6つのレベルに分け、各レベルの視野の大きさを高さにたとえて整理しています。
【 望む結果の6つのレベル 】
高度0メートル 次にとるべき行動
高度1000メートル プロジェクト
高度2000メートル 注意を向けるべき分野
高度3000メートル 目標
高度4000メートル 構想(ビジョン)
高度5000メートル 目的/価値観
上記の通り、プロジェクトとは「望む結果」の1要素です。そのため、ワークフローに従ってプロジェクトに割り当てられたものは、それがどのレベルに当たるのかを判断し、レベルごとに管理を分ける必要があります。
各レベル毎の定義、例、見直しタイミングは下記の通りです。
高度0メートル 次にとるべき行動
定義:プロジェクトやその他の「望んでいる結果」で次にとるべき、具体的な行動
例:車を洗う、企画書を書く、メールをチェックする
見直しタイミング:毎日
高度1000メートル プロジェクト
定義:達成するのに1つ以上の行動が必要な、1年以内に達成可能な「望んでいる結果」
例:ヨーロッパ旅行をする、洗濯機を修理する、○○会社との契約をまとめる、確定申告をする
見直しタイミング:毎週。または、次にとるべき行動が曖昧になり、前に進んでいないと感じたとき
高度2000メートル 注意を向けるべき分野
定義:着実に前進していくために、仕事と人生に関して一定の水準に保つ必要のある重要分野。
(これを見直すことで、これから重要になっていくと感じられるプロジェクトを見つけることができる)例:プライベート:家族、子育て、夫婦、自己開発、仕事:スタフ育成、企画、製品開発、顧客開拓、広報
見直しタイミング:毎月。または、仕事や人生に関する事情が大きく変わり、複数のプロジェクトを見直す必要があると感じたとき(会社での仕事や役職に大きな変化が生じたとき等)
高度3000メートル 目標
定義:ビジョンを実現するために1年から2年の間に具体的に達成しなければならないこと。終わるまで1年以上かかりそうなプロジェクト。
例:来年末までに売り上げ15%増、スペイン語を話せるようになる、長期的な投資戦略を定める
見直しタイミング:四半期
高度4000メートル 構想(ビジョン)
定義:長期的な成功のイメージ。達成できたときにどんな光景が広がっていて、どんな音が聞こえ、どんな気分になっているか。
例:時間やリソースを自由に使えるだけの個人資産を作る、行ってみたい美しい土地にできるだけたくさん行く
見直しタイミング:毎年
高度5000メートル 目的/価値観
定義:自分や組織の存在意義。行動する究極の判断基準、行動基準
例:誠実に振る舞う、自分を常に高めていく、何事にも誠意を持って取り組む
見直しタイミング:毎年または数年ごと。このレベルの見通しや方向性をより明確にしたり、見直したいと感じたときに随時。
上記の通り、GTDにおける将来への見通しの6つのレベルは、7つの習慣のようなトップダウン的な考え方とよく似ています。
GTDというと、ワークフローが非常に有名なためか状況のコントロールのためのボトムアップ的な思考ツールと捉えられがちですが、実はトップダウン的な考えも取り入れられていることがわかると思います。
ワークフローに従ってプロジェクトに振り分けられたものについて、上記の6つのレベルで整理することで、文字通り「将来への見通し」が立ち、さらなる生産性の向上につながります。
4. 「状況のコントロール」と「将来への見通し」の関係
「状況のコントロール」と「将来への見通し」はまさに車の両輪です。ただし、順番があって、「将来への見通し」の前に「状況のコントロール」を確実に達成することがポイントです。
以下、本書からの引用です。
状況のコントロール、そして将来への見通しの両面から考えることがあなたの生産性を高めるには必要なのだ。ただ、重要なのは、「将来への見通し」の前に「状況のコントロール」を確実に達成してしまうことだ。読むべきものの収集と整理を済ませる前に、「人生の目的を考えたときに、あなたが今読むべきなのはどれでしょう?」と尋ねられたら、あなたはどう答えるだろう。ほとんどの人は、何とか答えを出そうとするはずだ。けれどもたいていは、読むものが整理されていないせいで、十分に注意を向けて深く考えることができないだろう。少なくとも最低限の整理ができていない限り、より高度な次元で優先順位を考えることは時間のムダなのだ。
- 本書 P231 -
5. まとめ
GTD = 状況のコントロール(ワークフロー) + 将来への見通し
GTDのプロジェクトがわかりにくい理由は以下の2つ
・【理由1】GTDのワークフローは「状況のコントロール」の話なのに対して、プロジェクトは「将来への見通し」の話だから
・【理由2】解説記事でよくあるプロジェクトの定義(複数の行動が必要なもの)が曖昧だから「将来への見通し」は「次にとるべき行動」、「プロジェクト」、「注意を向けるべき分野」、「目標」、「構想(ビジョン)」、「目的/価値観」の6つのレベルで整理する
ワークフローに従ってプロジェクトに割り振られたものは、「将来への見通し」の6つのレベルで整理、管理する。
「将来への見通し」の前に「状況のコントロール」を確実に達成する
ワークフローに従った「状況のコントロール」と6つのレベルによる「将来への見通し」をバランスよく整理し、ぜひ人生の生産性を高めてください。
なお、本ブログに興味をもたれた方は本書↓を一読されることをお勧めします。
本記事ではご紹介できなかった点も含めてGTDをより深く理解できるはずです。