Photo: Le Penseur by Juanedc
今日は「クリティカルシンキングとタスク管理①のつづきです。
前回の記事の最後でクイズを出しましたが、みなさん答えは用意できましたでしょうか。まだの方は、解説を見る前にぜひ答えを考えてみてくださいね。
-- エレベーター問題 --
以下の問題に対する解決策を最低10個あげてください。
「あなたはビルのオーナー。10階建てのビルにはエレベーターが1基設置されているのみ。エレベーターは古く速度も遅いため、待ち時間が長くなってしまい利用者の不満が募っている。この不満を和らげるにはどうすればよいだろうか。」
論点(イシュー)を押さえる
では、さっそく解説に進みます。実はこのクイズは、私が通っていたビジネススクールで実際に出題されたものです。講義では、まず4~5人のグループに分かれて5分程度ディスカッションした後、グループごとに回答を発表するという流れで、私たちのグループは以下の案を出しました。
エレベーターを増設する
エレベーターのスピードを上げる
エレベーターを大きくする
最新のエレベーター制御装置を導入する
いかにもコストがかかりそうな案ばかりですが、今回コストは問題視されていないので、回答としてはOKです。問題は「解決策を最低10個」の部分です。ディスカッション時間が5分と短かったこともあり、私たちのグループは解決策の数を稼ぐことができず苦戦していました。
ここで講師から助け舟が出されます。
講師「これらの解決策は何の問題を解決するためのものですか?」
受講者全員「・・・?」
受講生A「エレベーターの輸送効率を上げるためのものです。」
講師「そうですね。では、そもそも皆さんが解決すべき課題は何ですか?」
受講生全員「!(全員その場で問題文を見返す)」
受講生B「『利用者の不満を和らげるにはどうすればよいか?』です。」
講師「その通り。輸送効率を上げるのと不満を和らげるのは全く別の話ですよね。不満を和らげることがイシュー(課題)と考えると、もっと他の案が出てきませんか?」
そうして再度ディスカッションしたところ、
1階の待ち合いスペースにテレビを設置し、待ち時間を長く感じさせないようにする
階段の途中に近くのカフェの割引券を置いて、階段を使いたくなるようにする
家賃を下げる
といった具合に、当初とは全く別の観点から次々と案が出てきました。
「不満を和らげること」をイシューと捉えて解決策の切り口を出していけば、
こんな感じでさまざまな案が出てきますが、私たちのグループはきちんとイシューを押さえていなかったがために、本来のイシューがいつの間にか「エレベーターの輸送効率を上げること」にすり替わり、
このような狭い思考に陥ってしまったのです。
イシューを押さえ「続ける」
イシューを押さえることは、言うなれば、前提を疑うということです。先の例では「そもそもエレベーターの輸送効率を上げるという課題そのものが違っているのでは?」と考えることがそれにあたりますが、この前提を疑うという発想は、思考作業に慣れていないとなかなか出てこないものです。
また、前回の記事でクリティカルシンキングのポイントを「イシューを押さえる」ではなく「イシューを押さえ続ける」と書きましたが、それは「押さえ続ける」の部分が最も難しく、最も重要だからです。
会議の始めに参加者全員でイシュー(論点)を確認にしたにもかかわらず、気付けば本来のイシューからずれたところで議論しているといった経験は誰にでもあると思いますが、イシューというのは内容を明確にして強く意識していたとしても、時間の経過とともに曖昧になるのが普通です。ですから、何かを考える際は、考え始める前はもちろん、考えている最中も「今考えていることは、本来のイシューとずれていないだろうか?」と自問し続けてほしいのです。
次回は、このクリティカルシンキングの考え方を、タスク管理に活かすためのポイントを説明したいと思います。
参考:クリティカルシンキングの参考書籍
体系的でありながら、事例・ケーススタディも豊富で全体感を掴むには最適なロングセラーです。 クリティカルシンキングについて腰を据えて学んだことがない人は一読の価値ありです。
クリティカルシンキングはあらゆる分野で必要となる基礎的な思考スキルですが、その一方で非常に奥が深く、表面的な理解ではなかなか実践に結びつかないのも事実です。なので、実践も交えつつ何度か読み返すことを強くお勧めします。