ワークライフバランスがとれない人が見逃しがちなたった1つの事

本稿は、組織論で語られがちなワークライフバランスを個人視点で考察した記事です。

  • ワークライフバランスを取るのが苦手

  • 仕事はそれなりだけど、プライベートがなかなか充実しない

  • 行き当たりばったり感をなんとかしたい

といった方向けのヒントになれば嬉しいです。

 

1. とある同僚の話

昔、会社の同僚にこんな不思議な人がいました。

立場はプロジェクトマネージャー、仕事はすこぶるデキル。計画的で実行力もある、細かいところにも気が回る、部下の信頼も厚い、そして結果もしっかり出す。
ところが、プライベートがめちゃくちゃ。

  • 30代半ばなのに金遣いは荒く貯金もほとんどない

  • 食事もファーストフードばかりで健康に悪そう

  • 妻に対する日頃のまずい対応が積み重なり離婚危機

  • お盆や正月も帰省せず田舎の親戚とも疎遠に

要はワークライフバランスが全く取れていないのです。 非常に優秀なだけに実に不思議でしたが、あなたの周りにも多かれ少なかれ似たような人がいるのではないでしょうか?

私は仮に同レベルに仕事ができたとしても、こうはなりたくないと常々思っていました。今はよくても10年後は体調を崩しているかもしれないし、孤独な老後も不安です。

 

2. ワークライフバランスが取れなかった理由

ワークライフバランスが取れていないと聞くと、会社がブラックだったから?と思われるかもしれませんが、これはNOです。毎日遅くても8時には帰ってましたし、仕事以外の時間は十分取れる環境でした。

では彼の能力不足?これも違いますね、仕事は抜群にデキるわけですから。適切なゴールを設定し、精度の高い計画をさっと立てて、リスクヘッジもできる。部下への指導力、周囲を巻き込む遂行力もある。非常にバランスがとれていました。

それなのになぜプライベートが問題だらけだったのでしょう?

離婚危機に陥ったとき彼が言った言葉が

  • 「こんなはずではなかった」

  • 「全く気づかなかった」

  • 「もっと正面から向き合えばよかった」

でした。

悩む人.jpg

要は、夫というアイデンティティを認識できていなかったのです。夫として何をしたら妻が喜んでくれるかをまともに考えたことがなかったのです。もし、少しでも考える機会があれば、普段のちょっとした心遣い、家事の分担、記念日のプレゼント、旅行等々奥さんを喜ばせるアイディアがいくらでも浮かんできたはずです。まして、彼の優秀さを持ってすれば、きっちり結果も出せたはずです。

端から見ると一見不思議ですが、一点集中型の人には結構ありがちです。実は偉そうに書いている私もこのタイプの人間なのでよくわかるのですが、何かに熱中しているといつの間にかアイデンティティが固定されてしまい、その他のアイデンティティは思考停止に陥ってしまうのです。そして、何年も経ってから緊急ではないけど重要なことを疎かにしていたことに気付き、後悔するわけです。

 

3. 一度下がった視点はなかなか上がらない

ではなぜアイデンティティが固定されるとそこから抜け出すのが難しいのでしょうか?
それは、アイデンンティティ→ゴール→タスクという概念に上下関係があるからです。

ちょっとわかりにくいと思うので、同様の構造を持つ概念でありがちな問題例をいくつかあげると、

  • 例1:目的/手段 → 手段の目的化
    家族の幸せのためマイホームを手に入れるべく節約を開始。ところが日々の生活の中で節約を意識しすぎるあまり、週末のレジャーにも行かず、毎日の食費やエアコン代すら惜しむように。心に余裕がなくなり、家族の空気は険悪になるばかり。

  • 例2:全体/部分 → 全体最適より部分最適
    プロジェクトを効率的・効果的に遂行するために複数のチームを作ったが、時間が経つにつれて業務の縦割り化が進み、結果として、チーム間調整コストの増加で非常に非効率的なプロジェクト運営を強いられることになった。

  • 例3:単純/複雑 → 無意味な複雑化
    社会人になって急増したタスクを効率的に管理するために手帳を使うことにした。最初はシンプルに必要な予定だけを書き込んでいたが、次第に色分けや独自記号を駆使した記法に変わっていった。気づくと、自分でも見間違えが発生するほど複雑な記入ルールになっていた。

汎化すると、これらは以下の特徴を持っていることがわかります。

  1. 上位概念・下位概念という階層構造になっている

  2. 上位概念より下位概念の方が具体的で目に見えやすく、普段の行動と密接に結びついている(逆にいうと上位概念の方が抽象的、観念的)

  3. 日常生活において上位概念から下位概念への移動はごく自然にかつ不可逆的に起こる(一度下位概念に移動すると上位概念には(意識しない限り)戻らない)

つまり、これらの思考の枠組みは、放っておくと下位概念しか捉えられない思考停止状態に陥るのです。そして、思考停止状態が続くと、当初、上位概念で思い描いた世界とは全く別の(最悪、真逆の)状態に陥ってしまうのです。 (詳しくは デキる人は知っている!「思考の枠組み」の罠と対処法をご覧ください。)

さて、話を戻すと、アイデンティティ→ゴール→タスクの関係はまさにこの一例なのです。
アイデンティティごとにゴールが定義され、ゴールからタスクが生まれます。
そして、アイデンティティよりゴール、ゴールよりタスクの方がより具体的です。
だから、アイデンティティが一旦固定化されると、下位概念であるゴールやタスクは自然に頭に浮かびますが、その他のアイデンティティは思考停止してしまうのです。その結果、気づくと「こんなはずではなかった」という状態になってしまうのです。平たくいうと、一度下がった視点はなかなか上がらないということです。

 

4. アイデンティティを認識して視野を広げる

こうならないためにはまずはいったん立ち止まって、視野を広げる機会が必要です。

先の同僚の例なら、プロジェクトマネージャーとしてのゴールやゴールに到達するまでのタスク設計、スケジューリングは十分考えられていました。自分のことだけでなく、プロジェクトの成功のために部下や周囲の人のことも含めてです。しかし、プロジェクトマネージャーとしての成功が彼にとっての全てではありません。彼のアイデンティティは他にもたくさんあります。

例えば、家族の中の役割を考えれば息子というアイデンティティがあります。30代も半ばとなれば親孝行だって真剣に考えなければいけない年齢です。「親を温泉旅行にでも連れて行ってあげたい」「今年こそは母の日、父の日に何かプレゼントしてあげたい」「もっと数年先、親の老後のことはどうしようか?」、自分に「息子」というアイデンティティがあると気づくだけで、いろんなやりたいこと、やるべきことが浮かんでくるはずです。

family.jpg


人生設計において視野を広げるということは異なるアイデンティティを認識するということです。逆にアイデンティティを認識できないと、なかなかそれに関連する夢やゴールは出てきません。これは全く難しい話ではなく、気づくか気づかないかの話なので頭の良し悪しは関係ありません。

 

5. アイデンティティを認識して人生のバランスをとる

本来あなたにはいろんなアイデンティティがあって、基本的に夢やゴールはそのアイデンティティ毎に描かれるものです。だから、まずはアイデンティティを洗い出しましょう(勿論、夢やゴールを洗い出してから、アイデンティティに偏りがないかをチェックするという順番でも構いません)。
先の例なら、仕事の面では「プロジェクトマネージャー」、家族という枠組みでは「息子」、「夫」、「父親」、写真が好きなら「写真家」、ピアノが趣味なら「ピアニスト」はどうでしょう。低金利の時代、待ちの姿勢では資産は増えない、投資も勉強してみたい、それなら「資産家」。結局最後は身体が資本、いつまでも健康でいたい「健康を楽しむ人」。

こんな感じであなたにもいろんなアイデンティティがあります。そして、アイデンティティを洗い出していくと、キーワードを聞いただけでいろんな夢やゴールが浮かんでくるのではないでしょうか。これは、自分のアイデンティティについて考えるということが人生設計における最も高い視点での思考作業となるからです。

一つのアイデンティティで成功できればその他のアイデンティティはどうなってもいいという人はいないと思います。人生、長い目で見れば大事なのはバランスです。自分のアイデンティティを洗い出してバランスのとれた人生設計をしましょう。


6. Dreamscopeでワークライフバランスをとる

こういった考え方を踏まえて、Dreamscopeではアイデンティティ毎にゴールを作り、ゴール毎にタスクを作るという形になっています。つまり、アイデンティティはゴールやタスクを束ねる再上位概念になっています。

Dreamscopeの情報階層


まずはアイデンティティを登録してみましょう。

Dreamscopeのアイデンティティリスト例

あとはアイデンティティ毎にゴールを登録していくだけでバランスのとれた未来年表(アイデンティティ×時間(月 or 年)のマトリクス)、すなわち人生設計が出来上がります。

Dreamscopeの未来年表(複数年計画)例

そして、Dreamscopeではアイデンティティごとに一定期間のタスク数 or 所要時間を集計し、バランスを可視化するチャートも備えています。ぜひ振り返りにご活用ください。

Dreamscopeのバランスチャート例

 

7. まとめ

本稿のタイトルは「ワークライフバランスが取れない人が見逃しがちなたった一つの事」なので、最後にこれに答えてまとめとします。

"ワークライフバランス"で検索するとわかりますが、このキーワードで語られることの大半は、フレックスタイム制、育児休暇、テレワーク、福利厚生サービス等々、いわゆる会社制度についてです。
これらはもちろん大切ですが、一番大切か?と聞かれたらNOでしょう。なぜなら、ワークライフバランスの主語は"会社"ではないからです。主語はあくまで"わたし"です。わたしのワークとライフのバランスの話なのです。だから、わたしのワークライフバランスを取るためにまず一番先に考えるべきは、わたしがどう生きたいか?です。そして、その第一歩がアイデンティティの定義なのです。これができればその後のゴール、タスク設計もバランスよくできますが、逆に疎かにすると冒頭の同僚のようになりかねません。至極当たり前の話ですが、いくらプライベートの時間が確保されても有意義に使えなければ無意味なのです。

つまり、「ワークライフバランスが取れない人が見逃しがちなたった一つの事」とは「アイデンティティを認識すること」です。 ぜひ自分のアイデンティティを理解し、バランスの取れた人生をエンジョイしてください!