「段取り八分」という言葉があるように、仕事の8割は段取りで決まるといっても過言ではありません。
ところが、段取りは学校ではほぼ教わりません。
以下は段取りが悪い時に陥りがちな状況ですが、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。
いつも時間に追われる
締め切りに間に合わない
抜け漏れ、ミスが多い
大きな仕事、新しい仕事で何をしたらいいかわからなくなる
でも安心してください。
段取りは才能ではなくスキルです。
正しいやり方さえわかれば誰でも一定レベルの技術を身につけることができます。
本稿では、段取りのやり方について4つのステップと10+1のポイントで網羅的に整理しました。
そして最後に、段取り力が高いとなぜ仕事がうまくいくのか、他ではあまり語られない真のメリットについても考察しています。
本記事のポイントをしっかりと理解し実践すれば、誰でも仕事で一定の成果を出せるようになります。
目次
段取りとは?
段取り4つのステップと10+1のポイント
段取りが良くなることの最大のメリット
まとめ
段取りをさらに深く理解するために
1. 段取りとは?
段取りとは、広辞苑によれば
事の順序・方法を定めること。
とあります。
語源は歌舞伎用語と言われており、「段」が話の区切りや一幕を指すことから、芝居の筋や構成の運びを「段取り」と呼んでいます。
これが転じて、現在では、物事を達成するために必要な手順を定める、という意味で使われています。
2. 段取り4つのステップと10+1のポイント
段取りは以下の4ステップで実践していきます。
以下、各ステップごとにポイントをまとめ、最後に段取り力向上に向けたポイントを1つご紹介します。
STEP1:目標設定
ポイント1. 目標を明確にする
段取りを考える際に何をするかを真っ先に考えがちですが、最初にやるべきは段取ってどこに向かいたいのか、到達点、目標を定めることです。目標が曖昧だと段取りも無駄になる可能性が高いので、必ず目標を明確にしてから段取りに入るようにしましょう。
目標設定のポイントは以下です。
目標はできるだけ具体的に(できれば数字で)書く
例)×売り上げをあげる → ◯売上高10億円目標の期日を明確にする
時間的余裕の有無で段取りの仕方も変わってくるので、必ず期日は明確にしましょう。目標の背景を明確にする
売上高10億円という目標でも、「売り上げが落ちてきている中で10億円は堅守したい」なのか、「売り上げが伸びていてその流れを更に加速させたい」なのか、背景によってこの後の段取りは変わってきます。前者なら売り上げ低下の原因調査が必要になりますが、後者なら例えば売れ筋商品の生産増や販促が段取りの主眼になるでしょう。なので、目標とセットでその背景も必ずおさえるようにしましょう。
STEP2:手順設計
目標が決まったら、次はそれを達成するための手順の設計です。
ポイントが6つあります。
特に、ポイント2,3は最も難しいところなので丁寧に解説します。
ポイント2. 段階的詳細化で、作業洗い出しに必要な観点を見つける
◆段階的詳細化とは?
手順設計といわれるといきなり実作業を洗い出したくなりますが、それなりの規模のプロジェクトではその前に観点を整理するとよいです。
例えば、夕飯の段取りくらいであれば、食材買って、下拵えして、調味料を量って・・といきなり作業を洗い出しても違和感はありません。しかし、アプリ開発くらいの規模になると、実作業としては統合開発ツールの選定、各種ツールのセットアップ、◯◯機能のコーディングなどがあがりますが、他にも大量の作業が必要なので、抜け漏れが出そうで不安になります。そこで、例えば、要件定義/設計/製造/試験/リリースという作業工程に分けて、各工程ごとに必要な作業を洗い出したりします。この工程が観点に当たります。
観点を絞ることで作業イメージがついて無理なく漏れなく作業を洗い出すことができるようになります。つまり、目標から一足飛びに実作業を洗い出すのではなく、目標→観点→作業といった具合に一歩一歩具体化していくことで大きな検討もれを防ぐことができます。これを段階的詳細化といいます。
なお、観点の階層は一つとは限りません。一般的に大きなプロジェクトほど階層は深くなります。例えば、先程のアプリ開発で言えば、大規模なものでは工程の次にプロセス(データベース設計、インタフェース設計、外部仕様設計等)を挟んで目標→工程→プロセス→作業といった形で観点を複数階層に分けることもよくあります。
◆抽象化と具体化の往復運動でMECEな観点をあげる
観点は目標達成の切り口なので、段取りしようとしている分野や目標ごとに変わります。例えば以下のようなものがあげられます。
観点例)
・イベントの段取り→5W1H
・料理→材料/レシピ/道具(調理器具)/料理人
・デザイン思考による課題解決→観察・共感/問題定義/アイデア創出/プロトタイピング/検証
・アプリ開発→要件定義/設計/製造/試験/リリース
観点をあげる際のポイントは2つです。
①MECE(ミーシー)
MECEは、「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の略で、“モレなくダブりなく”という意味です。観点がMECEになっていることで、観点から作業を洗い出す際に、有効な作業の見落としや、同じことを繰り返し考えるというムダをなくすことができます。
②抽象化と具体化の往復運動
これらの観点はメジャーなフレームワークが存在する分野もあれば、そうでない場合もあります。前者の場合はフレームワークを調べて参考にするだけでよいのですが、後者の場合は自分で考えなければなりません。そんなときは、
①試しに具体的な作業をいくつかあげる
②【抽象化】類似の作業をグルーピングして共通点(観点)を抜き出す
③【具体化】観点から作業を洗い出す
以下、②③を繰り返す
という流れで抽象化と具体化を繰り返しながら観点と作業を一緒に洗い出すとよいです。
◆観点が思いつかないときは、アナロジーを使う
また、該当分野の知見が乏しくなかなか観点が見つからないときは、アナロジーを活用しましょう。例えば、アプリ開発未経験者がアプリ開発の段取りを組む場合を考えてみます(本当はアプリ開発ならいくらでも情報はころがっていますが、頑張っても有効な観点が思いつかなかったという想定です)。この場合、万事休すかというとそんなこともありません。アプリ開発は汎化するとものづくりなので、例えばものづくりの一例である料理のアナロジーで考えてみるのです。
料理というのは料理人がレシピに従って、調理器具を使いながら食材を料理に変換する作業です。つまり、料理で必要なものは、材料、レシピ、道具(調理器具)、料理人の4つです。そして、この4つは料理で必要な要素をMECEで表現できているのがポイントです。これをアプリ開発に当てはめると、下記のようになります。
・材料 → 前工程の成果物、各種API等
・レシピ → 設計書
・道具 → 開発環境、開発・管理ツール群
・料理人 → 設計者・プログラマー
あとはそれぞれをどうやって準備したり作成するかという検討をしていくわけですが、アプリ開発に不慣れでも料理のアナロジーを使うことで、ある程度網羅的な検討ができることが分かると思います。
作業整理のための観点が思いつかないときは、対象を一段汎化してからその分野でよく知っている事例の観点を流用することをおすすめします。
ポイント3. 観点に従って、全ての作業をリストアップする
観点が整理できたら、いよいよ作業のリストアップです。
リストアップが中途半端な状態でタスクの具体化や実行に移ってしまうと、抜け漏れがあっても気づきにくくなるので、最初に全ての作業を洗い出すことが大切です。
作業を洗い出す際は、該当分野についてある程度の知見が必要なので、情報収集のポイントをいくつか書いておきます。
・公開情報を調べる
まずは世の中に公開されている情報をキャッチアップしましょう。大きく無料のものと有料のものがあります。極力無料でと考えがちですが、無料で得られる情報は浅かったりひどいと間違っていることもあるので、適宜有料情報の活用をおすすめします。
- 無料の情報ソース例:Web検索/YouTubeやインスタ等のSNS
- 有料の情報ソース例:Webの有料記事、Udemy等の教育用コンテンツ、書籍、雑誌
・非公開情報を調べる
付加価値の高い仕事の情報はなかなか世の中には出回りません。そんな時でも参考になる情報を持っている人はいるものです。人的ネットワークを駆使してキーマンへの接触を試みましょう。ギブアンドテイクの精神を忘れずに。
・普段からの情報発信
上記はいずれも情報が必要になった時のアクションですが、本当は必要になってから動くのでは遅いことも多いです。では、普段から何に心がければ良いかというと、それが情報発信です。
情報を得る話をしているのになぜ発信の話?と思われるかもしれませんが、情報は発信している人のところに集まります。
カラーバス効果という言葉をご存知でしょうか?
これは例えば、赤を意識して道を歩くと赤い車ばかりが目に付くようになるといった具合に、あることを意識するとそれに関する情報が無意識に集まってくる現象です。まず、情報発信をするとこのカラーバス効果が働くのです。定期的に情報発信している人は常日頃からその分野についての意識が高まっているので、普段であれば見落としてしまうような情報にも気づきやすくなります。その結果、該当分野についての知見が深まるのです。
また、情報発信をしていると、メールやコメントを通じて読者の反応を得られるのはもちろんのこと、その分野で一定のプレゼンスが認められれば各種講演、執筆依頼なども来るようになります。そうなるとその分野の有識者といわれる人たちとのパイプができてより有益な情報を得やすくなってきます。
まさに、情けは人のためならず、です。
急な段取りで慌てないためにも、普段からの情報発信で情報が集まる仕組みを作っておきましょう。
ポイント4. 実行可能なレベルまで作業を具体化する
さて、少し話がそれましたが、網羅的に作業を洗い出したら、次は各作業の具体化です。曖昧なタスクは実行されません。30分や60分単位で実行可能なレベルまで各作業を具体化しましょう。
(ただし、他の人(有識者)に割り当てる予定のタスクやルーティン化済みタスク等、過度な具体化が不要な場合は粗くてもOK)
ポイント5. 作業を順番に並べる
「前の作業が終わらないと次の作業が始まらない」という各作業間の依存関係を考えて作業の順番を決めます。
例)データの収集→データの加工→データの分析
ポイント6. 役割分担を決める
各作業の役割分担を決めます。
意識したいポイントは以下です。
適材適所を意識する(各作業ごとに得意な人をアサインする)
同時並行可能なタスクには別の人をアサインする
割り当て可能な人が限られている場合はこの通りにいかないケースもありますが、極力この点を意識することで効率的に作業を進められるようになります。
STEP3:スケジューリング
ポイント7. 作業ごとの所要時間を見積もる
作業内容および担当者のスキル等を踏まえて、各作業の所要時間を見積もります。
他の人に割り当てた作業については、各担当者とのすり合わせも忘れずに。
ポイント8. 余裕を持ったスケジューリングをする
各作業に対して開始・終了を設定していきます。
所要時間はあくまで理想的な状況における値なので、それに対して下記のような現実的な事情を加味して開始・終了を設定していきます。
リスクが高い作業はバッファーを入れる
休日や祝祭日等を考慮し、営業日ベースで考える
年休等、各担当者の都合も加味する
ポイント9. 優先度を設定する
段取りに沿って各作業を実行していると、トラブルや想定外の出来事が発生し当初の段取りを変更せざるを得ない場合があります。
そんな時に慌てず対処するために、予め優先度の高い作業を明確にしておきましょう。
もし何らかの事情でどこかの作業を簡素化する必要が出てきたら優先度の低いものから順に削減していきます。
では、どんな作業を優先度高に選べばよいかというと、大まかには最終成果物のQCD(品質・コスト・納期)に与える影響が大きな作業が該当します。
特に、進捗についてはクリティカルパスを意識するとよいです。
クリティカルパスとはプロジェクトマネジメント用語で、「前の作業が終わらないと次の作業が始まらない」という各作業間の依存関係に従って全作業を結んだときに、所要時間が最長となる経路のことです。この長さはプロジェクトの期間を表し、クリティカルパス上の作業の遅れはそのままプロジェクト全体の納期遅れにつながります。
ポイント7までをこなしていれば、クリティカルパスは明確になっているはずなので、進捗観点ではまずはクリティカルパス上の作業を優先度高にするとよいでしょう。
STEP4:実行管理
ポイント10. 定期的な進捗管理で遅れを速やかにリカバリー
STEP3までで段取りが一通り終わりあとは実行あるのみ、といきたいところですが、実行段階にも押さえるべき大事なポイントがあります。
それが、定期的な進捗管理です。
進捗管理というと地味で軽視されがちですが、なぜこれが大切かというと、遅れをできるだけ速やかに検知して対処するためです。
当初計画に対して今どこまで終わっているのかが可視化できていなければ遅れが発生しても気付くことはできません。
実行段階ではトラブルがつきものなので、遅れは必ず発生するものとしてこまめな進捗管理を行うようにしましょう。
なお、実行管理としては他にも品質管理、コスト管理、リスク管理等もありますが、これらは現実的には一定以上の規模がないとやらないケースが多いのでここでは割愛します。
段取り力のさらなる向上に向けて
ポイント11. 段取りをルーティン化する
以上が段取りの一通りのポイントになりますが、「思ったよりやることが多くて、これを毎回考えるのは大変・・」という声も聞こえてきそうです。
でもご安心ください。
本記事であげたポイントは、忘年会の幹事からイベント対応、商品開発に至るまで様々な分野で通用する、いわば仕事の型です。
つまり、一度段取りのやり方を身につければあらゆる仕事に応用が効くということであり、ルーティン化が可能だということです。
なので、最初は面倒かもしれませんが一つ一つのポイントを丁寧に確認しながら取り組まれることをお勧めします。
それを何度か繰り返すうちにルーティンとして無意識にできるようになってきます。
そうなればどんな仕事でも一定の成果が出せるようになります。
3. 段取りが良くなることの最大のメリット
最後、段取りが良くなるとどんな世界に出られるのかについて解説して終わりたいと思います。
本記事の冒頭で段取りが苦手な人の特徴をあげましたが、逆に段取り力が高い人にはどんな特徴があるでしょうか?ここまで説明したポイントを振り返りながらそれらを卒なくこなす人をイメージしてみてください。パッと思いつくのはこんな特徴でしょうか。
時間に追われなくなる
締め切りに間に合う
抜け漏れ、ミスがなくなる
大きな仕事、新しい仕事でもやるべきことを明確にできる
これはこれで正しいですが、実はこれらは表面的な特徴に過ぎません。
皆さんの周りにも一人二人は仕事の段取りが良い人がいると思いますが、上記に加えてこんな特徴も持ち合わせていないでしょうか?
気配り上手
柔軟な対応ができる
周囲へのアンテナ感度が高い
先読みができる
これらの特徴に共通しているのは「心の余裕」です。
実はこの心の余裕こそが段取り上手になることで得られる最大のメリットだと考えます。
なぜなら、心に余裕ができると、新しいアイディアやインスピレーションが沸きやすくなるからです。精神的にも安定し、人間関係も改善したりと、他にも様々なメリットが生まれます。
実際、一流のデザイナー、コピーライター、料理人等のいわゆるクリエイティブなお仕事をされている方はしばしば段取りの重要性を強調されます(最後に参考書籍を紹介しているのでぜひご覧ください)。
最後のポイントで段取りのルーティン化について解説しましたが、ルーティン作業ばかりやってると思考停止になって新しいことが閃きにくくなると思われがちです。が、現実は全く逆です。
ルーティン化されていないと、次あれやって、これやって・・と四六時中何をどうやるかを考えることになり、全く頭に余裕がなくなります。ルーティン化することで、そういった思考が不要になり、余裕ができて、インスピレーションを得やすい頭に変わっていくのです。
だから、段取りが上手になるということは、単に仕事がはやくなるとか、ミスがなくなるとかそういうレベルの話ではなく、その人ならではのクリエイティビティの解放につながるのです。
これが段取りが上手になることの最大のメリットだと考えます。
4. まとめ
①段取り4つのステップと10+1のポイント
STEP1:目標設定
ポイント1. 目標を明確にする
目標はできるだけ具体的に(できれば数字で)書く
目標の期日を明確にする
目標の背景を明確にする
STEP2:手順設計
ポイント2. 段階的詳細化で、作業洗い出しに必要な観点を見つける
抽象化と具体化の往復運動でMECEな観点をあげる
観点が思いつかないときは、アナロジーを使う
ポイント3. 観点に従って、全ての作業をリストアップする
情報不足の場合は、公開・非公開情報を駆使して情報を集める
普段からの情報発信で情報が集まる仕組みを作っておく
ポイント4. 実行可能なレベルまで作業を具体化する
ポイント5. 作業を順番に並べる
ポイント6. 役割分担を決める
STEP3:スケジューリング
ポイント7. 作業ごとの所要時間を見積もる
ポイント8. 余裕を持ったスケジューリングをする
ポイント9. 優先度を設定する
STEP4:実行管理
ポイント10. 定期的な進捗管理で遅れを速やかにリカバリー
段取り力のさらなる向上に向けて
ポイント11. 段取りをルーティン化する
②段取りが良くなることの最大のメリット
段取りが良くなることの最大のメリットは「心の余裕」が生まれ、新しいアイディアやインスピレーションがわきやすくなること
ぜひ、段取りをマスターし、あなたならではのクリエイティビティを解放してください!
長い記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
5. 段取りをさらに深く理解するために
段取りは大変奥が深いです。本記事はかなり基礎的な内容でしたが、ぜひ一流のクリエイターによる段取り論に触れてみてください。きっと新たな発見があるはずです。筆者のおすすめをいくつかご紹介します。
著者は新潮文庫「Yonda?」、「日テレ営業中」などの名コピーを生み出した、コピーライター・谷山雅計さん。基本的には広告コピーの作り方についての本ですが、書かれている方法論はあらゆるものづくりに通じる内容だと思います。宣伝会議のロングセラーだけあって単純に読み物としても面白いです。
著者はコメンテーターとしても活躍する教育学者の斎藤孝さん。トヨタ、アポロ13号、建築家・安藤忠雄等々著名な事例の背後にある段取りを紐解き、さらに実践編として仕事だけでなく、コミュニケーション、書き物、会議等様々なケースの段取りのポイントが解説されており、段取りという概念の裾野が大きく広がる一冊です。
アカデミー賞7部門にノミネートされた1994年公開のアメリカ映画で、冤罪で投獄された有能な銀行員が、刑務所の劣悪な環境の中でも希望を捨てず生き抜くヒューマンドラマです。映画として面白いのは言うまでもありませんが、一方で壮大な段取りの映画でもあり、希望は段取りに支えられているということを教えられました。